I.総 論 |
運動器疾患の保存療法の意義と課題 |
関口美穂
菊地臣一 |
《ポイント》
保存療法の治療には,EBMとNBMの両立が重要である.そして,患者の満足度やQOLへの配慮が必要で,患者の積極的な治療への参加が治療効果を上げるうえで重要である. |
運動器疾患の民間療法 |
浜西千秋 |
《ポイント》
運動器疾患では医療よりも【てあて】を求めて民間施術所が繁昌する素地がある.民間施術の特質をよく理解し,保存療法技術を自分のものとできれば整形外科専門医の武器の切り札としうる. |
運動器疾患の物理療法とエビデンス |
赤居正美 |
《ポイント》
今後の課題は,超音波やレーザー治療のごとく,科学的な検証に耐えうる臨床治療の評価基準を満たした物理療法の体系を順次,構築することである. |
II.部位別 |
<A.頚椎> |
変形性頚椎症に対するブロック療法 |
柴田政彦 |
《ポイント》
頚椎の神経ブロックはリスクが高く,安全に対する配慮が特に重要である.神経ブロックは除痛と病態診断のために有用な方法である. |
変形性頚椎症に対する保存療法,装具療法 |
山室健一
大上仁志
吉川一郎
星野雄一 |
《ポイント》
保存療法を効果的に行うには,初診時の注意深い診察と適切な治療法の選択,計画が重要である.装具療法の適応は,頑固な局所痛や神経根症状,頚髄症の軽症例,増悪例である. |
<B.肩> |
五十肩に対するヒアルロン酸注射療法 |
宗圓 聰 |
《ポイント》
肩関節周囲炎を含む肩関節痛に対するヒアルロン酸の関節内注入療法の臨床効果は国内外の検討から確立されており,高い安全性の観点からも推奨される治療法と言える. |
五十肩に対する運動療法 |
牧内大輔
筒井廣明 |
《ポイント》
五十肩に対する運動療法の実際について,急性期の治療法,徒手療法,体操療法に分類し,それぞれの具体的な方法および注意事項を紹介した. |
<C.肘> |
上腕骨外側上顆炎に対する保存療法 |
薄井正道 |
《ポイント》
上腕骨外側上顆炎に対する筆者の愛用する保存療法はNSAIDsの局所投与,ステロイド局注および装具療法である.これらを紹介し,そのエビデンスについて考察した. |
上腕骨外側上顆炎に対するハンドセラピィ |
西出義明
阿部宗昭 |
《ポイント》
上腕骨外側上顆炎に対するセラピィは,時期別(急性期,亜急性期,回復期)の対応と患者自身の理解を含めた細やかな動作指導が大切である. |
<D.手> |
手根管症候群に対する装具を中心とする保存療法 |
長岡正宏 |
《ポイント》
しびれ感が間欠的で母指球筋萎縮のない手根管症候群には装具療法はよい適応である. |
手根管症候群に対するステロイド注射を中心とする保存療法 |
時村文秋 |
《ポイント》
手根管症候群軽症例ではステロイド注射や手関節シーネ固定による保存療法が有効な場合がある.保存療法無効例では早期に手術を勧める. |
<E.腰> |
急性腰痛症に対するMcKenzie法 |
鈴木信治
稲田 充 |
《ポイント》
姿勢性腰痛症では,座位や立位姿勢が悪く,これが唯一の他覚的所見である.椎間関節性腰痛症では,姿勢異常と運動制限がある.椎間板ヘルニアでは,急性期から伸展運動が適応となる. |
急性腰痛症に対するAKA―博田法 |
住田憲是 |
《ポイント》
関節運動学的アプローチ(AKA―博田法)は急性腰痛に対して,その原因解明と治療法に大きな進歩をもたらした. |
急性腰痛症に対する土居式伸展位下肢自重牽引療法―遠隔成績から見た有用性― |
土居通泰 |
《ポイント》
従来の牽引法と異なる独創的な病因論に基づく本法は,簡便性,即効性,短期経済性,安全性,難再発性,長期持続性等に加え,年齢,性別,病期を問わない広適応性,好結果等の点で患者志向性が極めて高い. |
慢性腰痛症(腰部変形性脊椎症)に対する運動療法 |
武政龍一 |
《ポイント》
腰部変形性脊椎症による慢性腰痛には,運動療法が有効である.患者自らが主体的に腰痛を管理する姿勢を維持できるように医師が適切なガイドを行い,継続して運動することが重要である. |
腰椎椎間板ヘルニアに対するブロック療法 |
佐藤勝彦 |
《ポイント》
神経根性疼痛に対しては,通常はステップアップ療法で行い,痛みが強い時はターゲット療法としての神経根ブロックを行う.神経根ブロックの極意は患者に痛みを与えないで痛みをとることである. |
腰椎椎間板ヘルニアに対する椎間板内加圧注射療法 |
吉田 徹
見松健太郎 |
《ポイント》
椎間板内加圧注射は手技は容易で患者の負担が少なく,高い有効性がある.椎間孔外ヘルニアにも著効を示す.明らかな脊柱管内骨性病変のない例にはまず試みるべきである. |
腰椎椎間板ヘルニアに対する装具療法と運動療法 |
渡邉英明
中間季雄
星野雄一 |
《ポイント》
装具療法は安静,運動制限,腰椎安定性強化,背筋緊張軽減により,運動療法は体幹の安定化,静的・動的バランスの増大により,除痛を得ることを目的として行う. |
腰椎椎間板ヘルニアに対するレーザーによる減圧療法 |
米澤卓実 |
《ポイント》
適切な適応とレーザーの使用により,レーザーによる減圧方法はその有用性を否定されるものではない. |
腰部脊柱管狭窄症に対するブロック療法 |
関口美穂
紺野愼一 |
《ポイント》
ブロック療法は単に,痛みを改善させるだけではなく,患者のQOLの向上にも寄与しうる治療法である. |
腰部脊柱管狭窄症に対する薬物療法 |
高橋和久 |
《ポイント》
腰部脊柱管狭窄症に対しては,まず保存療法を試みるべきであり,薬物療法の主体は非ステロイド性抗炎症薬と経口プロスタグランジンE1誘導体製剤である. |
腰部脊柱管狭窄症に対する物理療法・装具療法 |
白土 修
川瀬真史 |
《ポイント》
腰部脊柱管狭窄症患者に対する物理療法・装具療法について概説した.個々の病態に基づいた適切な処方が,本療法の効果を上げるために重要である. |
<F.股> |
変形性股関節症に対する装具療法 |
中島育昌 |
《ポイント》
変形性股関節症の保存療法の一つである装具療法において,大腿骨顆部で荷重を支持し,坐骨部で股関節への負荷を軽減するように工夫した変形IRC装具を中心に述べた. |
変形性股関節症に対する運動療法の実際―エクササイズボールを使用したボール体操― |
別府諸兄
太藻ゆみこ |
《ポイント》
変形性股関節症に対するエクササイズボールを活用した運動療法である.
このボール体操は,ボールの弾力のある支え,転がりそして弾みを使い,神経と運動器の調整協調運動とCKCエクササイズを,股関節への負担を軽減し行える. |
<G.大腿部> |
大腿骨頚部骨折後の運動療法―自分でできる在宅運動メニュー― |
石橋英明 |
《ポイント》
大腿骨頚部骨折後の高齢者を対象とした在宅自己運動メニューを,その効果を検証した無作為割付介入研究の結果をともに紹介する. |
下肢慢性運動器疾患に対する筋力訓練による治療 |
黄川昭雄 |
《ポイント》
筋力の大きさと筋収縮形態で稼動する筋繊維は決まっている.FT繊維(速筋)は交感神経支配であり無酸素運動系である.医学的安全性はいかにST繊維を働かせるかである. |
<H.膝> |
変形性膝関節症に対するヒアルロン酸注射療法 |
徳谷 聡
岡村良久 |
《ポイント》
ヒアルロン酸注射療法は軟骨や関節液の粘弾性を回復させ,副作用が少なく,安全な保存療法である.臨床的有効性は高く,変形性膝関節症の進行を抑制する可能性がある. |
変形性膝関節症に対するステロイド注射療法 |
宗圓 聰 |
《ポイント》
ステロイド関節内注入は優れた臨床効果を有する一方で関節病変は進行する可能性も否定できない.滑膜炎に対する抑制作用から関節炎を有する例への限定的な適応はある. |
変形性膝関節症に対する貼付剤療法 |
藤野圭司 |
《ポイント》
変形性膝関節症に対する貼付剤療法は古くより行われており,その効果も実証されている.とくに第2世代といわれるNSAID含有貼付剤は経口NSAID剤に勝るとも劣らない治療効果がある. |
変形性膝関節症に対する大腿四頭筋筋力強化法進行要因との関連について |
古賀良生
渡辺博史 |
《ポイント》
変形性膝関節症の長年の力学的負荷で,下肢全体の運動変化を伴い悪化する.保存療法は悪化要因への対応で,大腿四頭筋などの筋力強化を継続させることが重要となる. |
変形性膝関節症に対する運動療法 |
鳥巣岳彦 |
《ポイント》
高齢者の訓練としては,側臥位で,下肢全体を天井に向け挙上させる訓練がお勧めである.その際,膝関節を完全に伸展させたまま,足関節を背屈させた状態で挙上させることがコツである. |
変形性膝関節症に対する装具(ブレース)療法 |
眞島任史
安田和則 |
《ポイント》
Unloading braceは膝アライメントを改善し内側荷重面の接触圧を減少させることにより,中等度~重度の膝OAにも効果を発揮し,その効果はRCTで証明されている. |
変形性膝関節症に対する減量療法と足底板療法 |
戸田佳孝
月村規子 |
《ポイント》
変形性膝関節症に対する減量療法と足底板療法の発展には日本の整形外科医が大きく貢献していた.日本の整形外科学は保存療法の研究にも力を入れ,特性を伸ばすべきと考える. |
変形性膝関節症に対するグルコサミンによる治療 |
菅原 忍 |
《ポイント》
新聞広告や雑誌で連日のように目の当たりにするグルコサミンは変形性関節症に有効である.長期使用でNSAIDsと変わらぬ効果があり,医療費削減にも有用である. |
III.スポーツ・発育 |
野球肩障害に対するリハビリ運動療法 |
川野哲英
野村亜樹
宮下浩二
平野佳代子 |
《ポイント》
野球肩障害はフォーム不良が原因として起こる.しかし投球はポジションで異なる.本稿では代表的な投動作を紹介し,それぞれの運動療法について私見を紹介する. |
野球肩障害に対する物理療法 |
加藤敦夫
黒川 純
高村 隆
菅谷啓之
斎藤明義 |
《ポイント》
野球肩障害に対する物理療法は,運動療法や徒手療法と組み合わせることで有用であると考える. |
野球肩障害(インピンジメント症候群)に対する理学療法 |
國分裕一
原 正文 |
《ポイント》
インピンジメント症候群に対する理学療法の進め方として,炎症の軽減と肩関節の可動性・柔軟性の獲得,そしてinner musclesおよびouter musclesの調和のとれた筋活動の獲得を目的に行うべきである. |
発育期の野球肘に対する保存療法 |
松浦哲也 |
《ポイント》
野球肘のうち,骨端線が閉鎖するまでの発育期障害について,その特徴,実態,保存療法の実際と治療成績について述べる. |
野球肘に対するリハビリテーション |
正富 隆 |
《ポイント》
痛みは安静にて消失するが,その間のリハビリテーションが早期復帰・再発防止の鍵となる.肘にとらわれない全身的なコンディショニングが重要で,障害予防のためにも継続的に行うべきである. |
スポーツによる慢性膝関節障害に対する運動(ストレッチ)療法 |
林 光俊
里見和彦 |
《ポイント》
慢性膝関節障害を疼痛の程度によって3期に分け,ストレッチを主にした治療を行うことにより,膝関節周辺の筋萎縮,ROM制限を最小限に予防する. |
スポーツによる慢性膝関節障害に対するヒアルロン酸注射療法 |
宗田 大 |
《ポイント》
疼痛を主訴とするスポーツ膝障害に対し,力学的な関与を確認し最大圧痛点を見出す.膝蓋腱周囲の疼痛は複雑である.最大圧痛点にヒアルロン酸製剤を投与する治療法は安全,有効である. |
スポーツによる腰痛症に対する鍼治療 |
宮本俊和
泉 重樹
青木謙介
池宗佐知子
原 賢二 |
《ポイント》
スポーツ選手の腰痛症の鍼治療は,疼痛部位の筋緊張の緩和を目的とした治療やバイオメカニクス的見地からの治療が必要となってくる. |
思春期脊椎分離症の保存療法 |
吉田 徹
見松健太郎 |
《ポイント》
思春期の新鮮椎弓分離の初期は骨疲労による骨吸収期そのものであり,極めて脆弱な時期である.この期は厳重な体幹の外固定が必要である.その後の骨形成期から運動療法などを開始する. |
発育期腰椎分離症の保存療法マニュアル |
西良浩一 |
《ポイント》
発育期分離症の保存法は2つに大別される.運動を中止させて骨癒合を目的とする方法と,疼痛管理を中心に運動を継続させる方法である.本稿では,その判断基準と詳細について述べる. |