I.骨折治療総論 |
1.骨折治療とバイオメカニクス |
渡部欣忍 |
バイオメカニクスの観点から,骨折の治療における2つの安定性―骨折部の安定性と固定材料の安定性―の意味を説き明かした. |
2.開放骨折の評価と初期治療 |
吉田健治 |
開放骨折の評価には種々の分類があるが問題点も多い.洗浄・scrubbing・デブリドマン,初期の骨折固定,創閉鎖に関する方法や考え方について述べた. |
3.骨折の急性期合併症とその対策 |
1)全身的合併症:肺血栓塞栓症,脂肪塞栓症候群 |
新藤正輝 |
骨折の急性期合併症である肺血栓塞栓症,脂肪塞栓症候群は致死的となることがあるため,十分に注意して周術期管理を行う必要がある. |
2)局所の合併症:神経血管損傷,コンパートメント症候群 |
平野貴章
別府諸兄 |
骨折を伴う高エネルギー外傷では,高度の軟部組織損傷を伴うことが多いため治療に難渋する.骨折の評価と同時に軟部組織の評価を行い,治療計画を立てることが重要である. |
4.高齢者の脆弱性骨折における問題点 |
中野哲雄 |
高齢者の脆弱性骨折はX線像による診断が難しい.高齢の脆弱性骨折患者は生命予後が不良であり,局所のトラブルも多い.骨粗鬆症薬は薬剤の特性を勘案して処方する. |
II.部位別治療の実際 |
1.鎖骨骨折 |
内野正隆
糸満盛憲 |
鎖骨骨折を骨幹部骨折と遠位部骨折に分けて鎖骨の運動と機能から手術治療について述べた.骨幹部骨折は3.5mmリコンストラクションプレート,遠位部骨折ではScorpion®を推奨する. |
2.上腕骨骨折 |
1)上腕骨骨折(近位部,骨幹部,遠位部) |
長野博志 |
成人の上腕骨骨折について近位部,骨幹部,遠位部に分け,その解剖的特徴と選択される治療法の実際と,注意が必要なポイントなどについて記述した. |
2)小児の肘関節周囲骨折 |
金 郁喆 |
小児の長管骨骨折では骨折後のリモデリングを期待して安易に治療されることが多いが,的確な診断と適切な治療を怠ると成長障害や変形を残す. |
3)高齢者の上腕骨近位部骨折 |
(1)保存療法―上腕骨近位端骨折に対する下垂位での早期運動療法について― |
石黒 隆 |
骨折部の適合性が得られ,立位での振り子運動が可能なものに対して受傷後1週から積極的に下垂位での振り子運動を行った.本法により良好な可動域と骨癒合が獲得されている. |
(2)手術療法 |
井上尚美 |
高齢者における上腕骨近位部骨折に対する髄内釘骨接合術では,ネイル挿入前に整復位を獲得し保持すること,ネイルで骨頭骨片を把持することが重要である. |
3.前腕骨骨折 |
1)前腕骨骨折・脱臼(両前腕骨骨折・Monteggia脱臼骨折・Galeazzi脱臼骨折) |
中村俊康 |
前腕骨の骨折・脱臼の中で治療が難しいのは,両前腕骨骨折とMonteggia脱臼骨折・Galeazzi脱臼骨折である.本項ではこれらの骨折・脱臼骨折について詳述した. |
2)高齢者の橈骨遠位骨折 |
(1)保存療法 |
高畑智嗣 |
橈骨遠位骨折に対する積極的で丁寧な保存療法は成績良好であり,手術を望まない患者の期待に応えるものである. |
(2)手術療法―掌側ロッキングプレートを用いた治療― |
高井盛光
長田伝重
玉井和哉 |
掌側ロッキングプレートを用いた橈骨遠位骨折の治療について詳述した. |
4.手根骨・中手骨の骨折 |
長田伝重 |
舟状骨骨折,有鉤骨鉤骨折,中手骨骨幹部・頚部骨折における診断のポイントや注意点を述べ,各種保存的治療あるいは手術的治療法を紹介し,そのポイントや注意点,落とし穴についても解説した. |
5.高齢者の脊椎椎体骨折 |
1)保存療法 |
浦山茂樹 |
早期診断に重要である体動時痛の特徴を述べた.保存治療として硬性コルセットおよび体幹ギプスの作製法,さらに反張位整復とその後の反張位ギプス固定法について記載した. |
2)手術療法 |
豊根知明 |
骨粗鬆症性椎体骨折の手術治療を成功に導くためには,病態にあった適切な術式を選択し,インプラントの折損や脱転を防ぐための様々な技術を駆使していく必要がある. |
6.骨盤輪骨折 |
白濵正博 |
骨盤輪骨折は急性期の迅速なTAE,創外固定等による処置が要求され,循環動態安定後は骨盤輪後方要素の損傷程度を適切に判断し,骨折型に適した固定法が必要となる. |
7.寛骨臼骨折 |
澤口 毅 |
寛骨臼骨折では画像診断に基づいて骨折型を正確に診断,適切な手術アプローチを選択し,関節面の完全な整復と強固な固定を行う必要がある. |
8.高齢者の大腿骨近位部骨折 |
1)大腿骨頚部骨折 |
南澤育雄 |
骨粗鬆症を基盤としており,外傷機序が明らかでないこともある.年齢,全身的,社会的なことなどを考慮に入れ,骨折部の情報から骨癒合する可能性が高いか否かを判定し,骨接合術か人工物置換術を選択すべきである. |
2)大腿骨転子部骨折 |
市村和徳 |
高齢者大腿骨転子部骨折の手術治療,骨折部の整復方法,術後リハ,手術前後の内科疾患合併,手術後の予後,退院後の介護について概説した. |
9.大腿骨骨幹部骨折 |
1)大腿骨転子下・骨幹部骨折 |
生田拓也 |
大腿骨骨幹部骨折に対する手術的療法としては髄内釘が第一選択となる.大腿骨転子下骨折の場合,plate固定を選択したほうが骨折部の整復も含め,手術が行いやすい場合が少なくない. |
2)人工股関節ステム周囲骨折 |
馬場智規
一青勝雄 |
人工股関節ステム周囲骨折は,ステムの緩みの判断が重要で,骨折部とステムの安定性を同時に得ることが必要である. |
10.大腿骨顆部・顆上骨折の治療 |
大塚 誠
田中 正 |
低侵襲で強固な固定が可能な治療法であるロッキングプレートによるMIPOや,逆行性髄内釘の適応,手技の実際,ピットフォールなどについて紹介する. |
11.人工膝関節周囲骨折の治療 |
佐藤 徹 |
人工膝関節周囲骨折に対する骨接合術はTKAに使用されるインプラントの変遷とロッキングプレートの開発とともに大きな変貌を遂げた.新たな治療の利点とそれに伴う注意点を症例を呈示して具体的に詳細する. |
12.膝蓋骨骨折 |
森川圭造 |
膝蓋骨骨折は種子骨の骨折であるが,同時に膝蓋大腿関節の関節内骨折でもある.その解剖学的特徴を持つ本骨折に対し,手術療法における手技について紹介する. |
13.脛骨プラトー骨折 |
南里泰弘 |
本骨折は軟部組織損傷の評価が重要であり,時に待機手術となる.骨折部の評価にはCT-scanが必須であり,膝関節面の解剖学的整復と脛骨軸のアライメントの整復固定が重要である. |
14.脛骨骨幹部骨折 |
1)保存療法 |
日下部虎夫 |
成人の脛骨骨幹部骨折の治療は手術療法が選択されることが多く,ギプス固定による保存療法の適応はかなり限られる.その治療手技の難易度は手術療法と大差がなく,その適応とギプス固定による保存療法の正しい技術の習得が治療結果に大きく影響する. |
2)手術療法 |
土田芳彦 |
関節近傍を含めて多くの脛骨骨幹部骨折は髄内釘にて固定する.良い整復位獲得のために,bloking screwやunicortical plateの使用や上膝蓋骨アプローチからの挿入が有効である. |
15.足関節部骨折(果部骨折,脛骨天蓋骨折) |
長谷川惇 |
足関節果部骨折は後果骨折,外果骨折,内果骨折の順に整復し,時に脛腓間を固定する.脛骨天蓋骨折は最大尖足位にて各々の関節骨片を距骨関節面に合わせて整復する. |
16.踵骨骨折・距骨骨折 |
瀬戸信一朗
椎木栄一 |
踵骨骨折に対する外側J字小皮切プレート固定は良好な術野が確保できるうえ,皮膚壊死を生じにくい.距骨骨折に対する内固定法とともに術式,合併症について述べた. |
17.足部の脱臼・骨折 |
白仁田厚 |
足部の多彩な骨折脱臼について記述した.診断にCTは必須である.High energy損傷では創外固定の併用も考慮し,常にコンパートメント症候群の合併を考えておく必要がある. |