1.実際の補聴器適合検査にあたって |
神田 幸彦 |
開業し10年間補聴器を適合してきた.これまでの経験の中から診療所での音環境,適合前の検査,補聴器適合検査を述べる.実際の当施設での症例を交えながら解説する. |
2.初めて補聴器を患者さんに適合する場合について |
Q1 乳児の場合は? |
福島 邦博 |
補聴器の装用を開始した後も反復する聴力検査で修正を繰り返しながら補聴器装用を進める.装用指導は生活リズムを聴取した上で丁寧に行うことが重要である. |
Q2 1歳6ヶ月児健診にて発見された場合は? |
森田 訓子 |
両側中等度以上の難聴は言語発達の遅れを最小限にとどめるため,速やかに補聴器(主に耳かけ型)を装用する.両側重度難聴では,適切な補聴器を装用してもことばの獲得が不十分と予想される場合は人工内耳も考慮する. |
Q3 3歳時健診にて発見された場合は? |
守本 倫子 |
軽度・中等度難聴が多いため,親が子どもが難聴によって直面している問題を理解し,補聴器による変化をよく観察するように指導することが大切である. |
Q4 就学児~大学生の場合は? |
神田 幸彦 |
外~中耳疾患や前庭水管拡大等で変動しやすい,過渡期でデリケートな精神状態にあることに最大限の配慮を行い適合する.学校教育ではFM補聴器が有用である点,診療所での補聴器診療のメリットなどに触れる. |
Q5 社会人での場合は? |
吉田 晴郎 |
補聴器未経験者が多い社会人では,補聴器への期待が高い場合もあり,職務上の使用がポイントとなる.職場環境によって必要な機能を選択し,外見を重視する際にはそれにも応える. |
Q6 60~80歳代での場合は? |
大沼 直紀 |
60歳代以降の補聴器がよく活用されるには,オープンフィッティングなど装用感を重視した機種の選定,高齢難聴者本人の聞こえを楽しむ意欲,周囲の人の分かりやすい話し方スキルが大切である. |
Q7 80~100歳代での場合は? |
内田 育恵ほか |
80歳以上になってから,補聴器使用を開始するのは容易ではないが,難聴が認知機能低下や情動障害のリスクとなり,QOL低下につながることから,聴覚活用は重要な課題である. |
3.補聴器適合検査前に必要なことは? |
Q8 これだけは実施しておきたい検査と説明―成人の場合― |
新田 清一 |
純音聴力検査と語音弁別検査を施行し,補聴器装用に役立てる.耳鼻咽喉科医は補聴器に関する正しい知識と適合の流れについて,患者・家族へ詳細に説明する責務がある. |
Q9 これだけは実施しておきたい検査―小児の場合― |
新谷 朋子 |
開業医は補聴器適合のために耳垢の除去や中耳炎の有無をチェックし,外耳炎,中耳炎の継続的な治療を行う.補聴器装用や療育に不安をもつ保護者への援助を行う. |
Q10 感音難聴の場合の注意点 |
麻生 伸 |
小児や高齢者では正確な閾値検査を心がける.急性感音難聴では,聴力が固定した時点で補聴器装用を勧める.装用前の患者,家族の心理も考慮する必要がある. |
Q11 伝音・混合難聴の場合の注意点 |
岩崎 聡ほか |
外耳・中耳疾患(奇形を含む)の中には,既存の手術を行っても伝音・混合難聴が改善せず,補聴器でも補聴効果が得られないことがある.その場合人工中耳やBahaを検討する. |
4.補聴器フィッティング現場での対応 |
Q12 軽度難聴の場合の注意点は? |
岡崎 宏ほか |
軽度難聴に多い高音障害型難聴にはオープンフィッティング型補聴器を使用し,耳栓の選択を含め適切に評価・調整を行い,患者には貸し出し試聴の機会を与えるようにする. |
Q13 中等度難聴の場合の注意点は? |
増田佐和子 |
一般に中等度難聴では生活上の支障が生じ,補聴器が有効である.基本的な機能に加え,個人の必要に応じた機能をもつ機種を選択する.小児では補聴器は必須である. |
Q14 高度難聴の場合の注意点は? |
茂木 英明ほか |
高度難聴では補聴器装用効果を得るのは容易ではない.その効果と限界について丁寧な説明を心がける.効果がみられない場合,人工内耳の選択肢も考慮し情報提供を行う. |
Q15 重度難聴の場合の注意点は? |
神田 幸彦ほか |
初診時に多大なコミュニケーション障害があることの多い重度難聴患者を診療所で診察する際にできるだけスピーディーな問診やわかりやすい説明をするための道具を紹介し,重度難聴患者の選択器種,適合時のコツを述べる. |
Q16 補聴器の耳鳴に対する効果は? |
鈴木 大介ほか |
補聴器の音響療法において治療効果を得るには,指示的カウンセリングにより耳鳴について適切に理解してもらうことが最も重要である. |
Q17 両耳装用の効果は? |
神田 幸彦ほか |
補聴器の両耳装用の効果,summation,squelch,head shadow効果や方向感,音源定位,音質の改善等を解説し,どのような難聴者に勧めているか,両耳装用の欠点,当施設での補聴器外来患者の頻度を述べる. |
Q18 フォローアップはどのようにするか? |
荒尾はるみほか |
当診療所での「フォローアップ」について報告する.補聴対象者の大多数である高齢者とその家族にとって身近の開業医の補聴器外来は,敷居が低く通いやすいということが一番の長所である. |
Q19 FM補聴器などについて |
武田 英彦 |
音環境によっては補聴器で効果を得るには限界があり,その様な場合にFM補聴システムによる効果が期待される.今後の普及のためには難聴者や社会への啓発が必要である. |
Q20 自立支援法対応型補聴器と処方について |
隈上 秀高 |
難聴の診療においては,自立支援法に基づいた申請ができるか否かを念頭に置く.適切な申請と補聴器処方で,患者の物心両面にわたる支援が可能となる. |
Q21 日本耳鼻咽喉科学会指定の補聴器相談医について |
安野 友博 |
補聴器相談医は補聴器供給システムの整備の中で生まれた.ユーザーである難聴者が接する補聴器相談医と認定補聴器専門店は良い連携を保って難聴者のQOL向上に資したい. |
Q22 認定補聴器技能者について |
宮永 好章 |
認定補聴器技能者が必要とされることとなった背景,技能者が持つ技量と医療との連携の中で行う業務,活用してほしい認定補聴器技能者. |
Q23 補聴器購入者へのインフォームド・コンセント |
橋本 清 |
補聴器を購入する前・後でのカウンセリングは重要である.また,カウンセリングと並行して,難聴を有し困っている患者さんを,良心的で技術も確かな認定補聴器技能者や認定補聴器専門店に紹介できるシステムも大切であり,診療所の一医師として考えることを述べる. |
5.その他 |
Q24 厚労省主催補聴器適合判定医師研究会の変遷 |
田内 光 |
厚生労働省主催「補聴器適合判定医師研修会」の現在までの講義および実習内容・受講者数・受講年齢などの変遷について述べ,今後の研修会のあり方について言及した. |
Q25 補聴器の可能性と限界について(装用者の不満とその対策) |
中川 辰雄 |
補聴器を装用する人や周囲の人に対して「補聴器の可能性と限界」について本文中の図1に示したような手順に従って補聴相談を行って,補聴器の聞こえの改善を具体的に図る. |
Q26 どのような時に補聴器が必要か? |
竹腰 英樹 |
様々な要因が補聴器装用に関与している.他項で述べている以外の装用適応について記した.中でも本人の聴覚獲得へのモチベーション,家族のモチベーションが大切である. |
Q27 どのような人には補聴器は役に立たないか? |
白馬 伸洋 |
まずは気導補聴器の装用を試み,効果を確認した上で厳密なフィッティングを行う.症例により鼓室形成術や骨導補聴器,BAHA,人工内耳が適応となる場合もある. |
Q28 補聴器の種類による適応の差は? |
米本 清ほか |
補聴器は,その形状やメーカによって音質が異なる.納得して活用するには,実生活での音環境に合わせ,自分の音の好みをも考慮して補聴器を選択することが重要である. |
Q29 骨導補聴器はどのような時に有効か? |
工 穣 |
骨導補聴器には眼鏡型,カチューシャ型,ヘアバンド型,ヘッドバンド型,埋め込み型(Baha®)などがあり,性能も向上しているため,正しい選択が重要である. |
Q30 幼児で補聴器装用の限界をどうして知るのか? |
北野 庸子 |
人工内耳は,重度・最重度の聴覚障害をもつ乳幼児に会話音域を超える補聴レベルを提供し音声言語獲得の可能性を広げている. |
Q31 音楽を補聴器と人工内耳で聴くための基礎的な知識 |
加我 君孝 |
音楽は言葉の聴き取りとは根本的に異なる.音楽はメロディ,リズム,ハーモニーからなり,主題はあるが言葉のような論理はない.環境音には意味はない. |
Q32 補聴器の最新の技術の動向 |
中川 雅文 |
これまでとはまったく方式の異なる音声信号処理技術を搭載した補聴器が各メーカーから提案されはじめている.最低限知っておくべき新技術を中心に紹介する. |